P--719 P--720 P--721 #1如来二種回向文    如来二種回向文 【1】 『無量寿経優婆提舎願生偈』にいはく、「云何回向 不捨一切苦悩衆 生 心常作願 回向為首得成就大悲心故」[文]  この本願力の回向をもつて、如来の回向に二種あり。一つには往相の回向、 二つには還相の回向なり。 【2】 往相の回向につきて、真実の行業あり、真実の信心あり、真実の証果あ り。 【3】 真実の行業といふは、諸仏称名の悲願(第十七願)にあらはれたり。称 名の悲願、『大無量寿経』(上)にのたまはく、「設我得仏 十方世界 無量 諸仏 不悉咨嗟 称我名者 不取正覚」[文] 【4】 真実信心といふは、念仏往生の悲願(第十八願)にあらはれたり。信楽の 悲願、『大経』(上)にのたまはく、「設我得仏 十方衆生 至心信楽 欲生我 P--722 国 乃至十念 若不生者 不取正覚 唯除五逆 誹謗正法」[文] 【5】 真実証果といふは、必至滅度の悲願(第十一願)にあらはれたり。証果の 悲願、『大経』(上)にのたまはく、「設我得仏 国中人天 不住定聚 必至滅 度者 不取正覚」[文]  これらの本誓悲願を、選択本願と申すなり。 【6】 この必至滅度の大願をおこしたまひて、この真実信楽をえたらん人は、 すなはち正定聚の位に住せしめんと誓ひたまへり。  同本異訳の『無量寿如来会』(上)にのたまはく、「若我成仏 国中有情 若 不決定 成等正覚 証大涅槃者 不取菩提」[文]  この悲願は、すなはち真実信楽をえたる人は決定して等正覚にならしめんと 誓ひたまへりとなり。等正覚は、すなはち正定聚の位なり。等正覚と申すは、 補処の弥勒菩薩とおなじからしめんと誓ひたまへるなり。これらの選択本願 は、法蔵菩薩の不思議の弘誓なり。しかれば真実信心の念仏者は、『大経』(下) には「次如弥勒」とのたまへり。これらの大誓願を往相の回向と申すとみえた り。弥勒菩薩とおなじといへりと『龍舒浄土文』にはあらはせり。 P--723 【7】 二つに、還相回向といふは、『浄土論』にいはく、「以本願力回向故 是名出第五門」と。これはこれ還相の回向なり。 【8】 このこころは、一生補処の大願(第二十二願)にあらはれたり。大慈大悲の 誓願は、『大経』(上)にのたまはく、「設我得仏 他方仏土諸菩薩衆  来生我国 究竟必至一生補処 除其本願自在所化 為衆生故  被弘誓鎧積累徳本 度脱一切 遊諸仏国修菩薩行 供養十方諸 仏如来 開化恒沙無量衆生 使立無上正真之道 超出常倫  諸地之行現前 修習普賢之徳 若不爾者 不取正覚」[文]  これは如来の還相回向の御ちかひなり。これは他力の還相の回向なれば、自 利・利他ともに行者の願楽にあらず、法蔵菩薩の誓願なり。「他力には義なき をもつて義とす」と、大師聖人(源空)は仰せごとありき。よくよくこの選択 悲願をこころえたまふべし。   [正嘉元年丁巳閏三月二十一日これを書写す。] P--724